IT業界は、主に「ハードウェア」、「ソフトウェア」、「インターネット(Web)」、「情報処理サービス(SI)」の4つに分類できます。それぞれ役割は異なり、職業選択をする上で把握しておかなければなりません。今回は、「情報処理サービス(SI)業界」について理解を深めるとともに、就職難易度についても見ていきましょう。
概要
情報処理サービス業界(以下、SI業界)とは、あらゆる業界や企業の業務を円滑に進めるための独自のシステムを、企画から運用まで一貫して請け負う業界のことを指します。分かりやすく言うと、企業が抱える課題や悩みをITの力(システム)で解決していく業界です。
例として、銀行のATM、店舗のレジ、佐川急便の流通システムなど、生活に密着しているあらゆるモノが挙げられます。つまり、銀行・証券・物流・医療など様々な業界がビジネスの対象となるのです。
近年では、課題解決のためのシステムだけでなく、時代のニーズを先取りしたシステム開発も行われています。
SI業界の構造と代表的な企業
SI業界の構造として、大まかに分けると4つの層が存在します。それぞれ見てきましょう。
発注者
システム開発を依頼する企業・業界が、発注者です。SI業界の顧客(お客様)であり、官公庁・銀行・保健・医療・通信・製造・農業・学校と業界は様々です。
一次請け
ベンダーやSIer(システムインテグレーター)と呼ばれる企業を指します。SI業界の中でも大企業が多い層です。顧客から依頼を受けて、オーダーメイドでシステム開発の契約を直接結びます。いわゆる受託開発企業ですね。
ベンダーとSIerの違いを分かりやすく言うと、ソフトウェアやハードウェアの製造元を「ベンダー」、顧客の要望や環境に合ったシステムを一から作る企業を「SIer」と呼びます。
SIerは、顧客の業務を把握し、抱えている問題を解決するために「戦略立案・企画」、「要件定義」、「設計・開発」、「運用・保守」といった工程を行います。すべての工程を行うのか、一部のみを行うのかは企業によって異なります。
NTTデータ、富士通、富士ソフト、日立、NEC、東芝、IBM、CTC、TIS
二次請け・三次請け
前述した一次請け企業(SIerやベンダー)から仕事を受注し、開発や運営業務を行います。大半が中小企業であり、業界の8~9割を占めています。それぞれの得意分野や専門分野に仕事を分割してプロジェクトチームを組み、顧客のニーズに合ったシステム開発を目指します。
未経験者や文系学生は、ここでスキルを磨いてから一次請け企業や別業界に転職する人が多い傾向にあります。
SI業界の特徴
働き方
SI業界の働き方は特徴的で、「客先常駐」と「受託開発」の二つに分けられます。
客先常駐とは、顧客のもと(案件先)で仕事を行うスタイルです。情報漏洩などを防ぐために行われます。プロジェクトごとに働く場所が異なりますが、いろいろな現場を体験することにより、大幅なスキルアップが期待できます。また、一人で常駐することはほとんどなく、同じ会社に所属する先輩技術者と共に行動します。多くの企業は、技術者が月に一度自社に戻る日を設けています。
一方の受託開発は、他の企業から依頼を受けて自社で開発を行います。つくるものは受注するものによって変わることもあれば、同じシステムを継続して受注することもあり、担当する仕事によって様々です。
割合的には、客先常駐が8割、受託開発が2割となっています。
キャリアパス
SI業界の一般的なキャリアパスとしては、プログラマ(PG)からスタートしてプログラミングスキルを磨いていきます。その後、システムエンジニア(SE)やプロジェクトマネージャー(PM)になるケースがほとんどです。ITコンサルタントやセールスエンジニア(営業職)など、他にも幅広い職種に挑戦することができます。また、いきなりSEからスタートできる企業はほとんどありませんので、注意してください。
職種については、職種図鑑で解説していきます。
システム開発の工程
システム開発にはいくつかの工程があり、全体で大きなプロジェクトとして動きます。スキルに合わせて任せられる工程が異なり、前述したプログラマ(PG)は主に開発工程を任され、仕様書通りにプログラミングを行います。経験を積んだ後は、大手企業への転職や上流工程へ関わることができるようになります。
市場規模
経済産業省の「特定サービス産業動態統計(平成29年)」によると、受託ソフトウェア開発と情報処理サービス(SI)を合わせた平成29年度の市場規模は、約6兆7905億円でした。SIのみの規模は4兆5651億円となっています。
今後の動向
今後のSI業界で重要なキーワードは、「クラウドコンピューティング」、「ビッグデータ」、「人工知能(AI)」、「IoT」などの先端技術です。特にクラウドサービスの登場により、さらに大きく変動していく業界と言えるでしょう。 [IT用語集]
手元のコンピュータの中にあるソフトウェアやデータを利用するのではなく、ネットワークを経由してクラウド環境の中にあるソフトウェアやデータを利用できるサービスのこと。
従来は、各企業は自社でシステムを保有することが当然のこととされてきました。しかし、クラウドサービスが普及してきたことでITにかけるコストを抑えることに成功し、自社でシステムを保有しないという選択が可能になりました。そうなると、SIer(一次請け企業)への発注は低下していき、さらに下請け企業(二次請け・三次請け企業)への委託も減少していきます。
一見すると、衰退していくように感じますが、決してそんなことはありません。発注量が低下するといっても圧倒的な需要があり、前述した最先端技術も取り込むことで、これからも無くてはならない業界であることは変わらないからです。技術をいち早く取り入れる企業・技術者は、これからも重宝されるでしょう。
気になる就職難易度は…
情報処理サービス(SI)業界の難易度:★☆☆
SI業界の就職難易度は、最も易しい星1つとなっています。
SI業界は深刻な人材不足に陥っているため、文系や未経験者でも比較的入りやすい状態です。人材不足の要因の一つとして、中小企業が多く実態が見えにくいことが挙げられます。IT業界の中でも圧倒的に「需要」や「社会への貢献度」は高い業界であるため、認知度が高まればたちまち人気業界となるでしょう。
SI業界のメリットは、人材を育てるための研修制度や教育体制が充実している点です。また、基本的に資本元が大手企業なので、給与が安定かつ高収入です。技術を身に着けることができれば、どこの現場でも活躍できます。
文系や未経験の方に、最もおすすめの業界と言えるでしょう。