IT業界には様々な業界や職種が存在します。今回は、「インフラエンジニア」について見ていきましょう。
そもそもインフラって何?
インフラとは、「infrastructure(インフラストラクチャー)」の略語です。日本語にすると「基盤」、「土台」、「構造」という意味になります。
例えば、電気・ガス・水道や交通網、電話等の通信網など、生活に欠かせないモノやエネルギーを私たちに届ける仕組み、つまりサービスを提供するための土台となる設備のことを「インフラ」と呼びます。
ITで言うところのインフラとは、インターネット、LANなどのネットワークやサーバー、コンピュータやプリンタなどのハードウェア、OSやデータベースなどのミドルウェアを指します。これらは、ITシステムの土台になる部分です。この土台の上でアプリケーションが正常に動くことで、初めて快適なサービスを提供することができるのです。インフラエンジニアは、この土台となるシステムを構築・導入する重要な職種です。
インフラについて理解できたところで、実際にどのような仕事をしているのか見ていきましょう。
仕事内容
ITインフラ関連の仕事は作業が多岐に渡るため、複数のエンジニアがチームを結成して業務を遂行していきます。主な作業工程は、「設計」、「構築」、「テスト」、「運用保守」の四つに分かれています。
顧客の希望実現と情報共有のための「設計」
複数のエンジニアで構成されるチームでは、プロジェクトを円滑に進めるための情報共有は必要不可欠です。そのため、「仕様書(設計書のようなもの)」の作成は非常に重要となります。
設計書には、どのような機能を持たせ、どのような性能を実現するのかといったことを記していきます。予算やスケジュールなどもこの時点で綿密に決定するため、最も重要な工程といえるでしょう。顧客の要望を聞きながら慎重に決めていきます。
仕様書をもとにインフラを作る「構築」
仕様書が完成したら、実際にインフラを構築する作業に入ります。これは、仕様書に従ってハードウェアとミドルウェアの設定を行うこと、つまりは私たちが普段行うような「コンピュータの設定」に似たものと考えてください。皆さんも新しくコンピュータやスマートフォンなどを購入したときは、ケーブルを繋げたり、ソフトウェア(アプリケーションソフトウェア)をインストールしたりしますよね。この一連の作業スケールを大きくしたものがインフラの構築です。
インフラに異常がないか確認する「テスト」
構築したインフラが正常に稼働するかをチェックする単体テスト、システムとの連携を確認する連動テストを行います。ここでエラーが起きた場合は「構築」の工程へ戻り、再び「テスト」をします。エラーがなくなるまで何度でも繰り返すので、非常に根気のいる作業です。しかし、ここをクリアしなければシステムを顧客の元へ届けることはできません。最終的な総合テストで合格すれば、顧客の元へ導入されます。
トラブル対応や改善を行う「運用・保守」
インフラエンジニアの業務の中でも大部分を占めているのが運用・保守です。この工程を専門で行うエンジニアは、オペレーションエンジニアと呼ばれます。
この工程では、ハードウェアの故障や人為的なミス、アクセス集中対策などのトラブルに対する「障害対応」、インフラ設計時に予想していた稼働容量と実際の使用容量に差が生じた際、容量不足時には増量、余っている時には削減する「キャパシティ管理」、インフラが原因ではないシステム障害を切り分ける「トラブルシューティング」を行います。
このような事態に迅速に対処できるよう、常に監視することもインフラエンジニアの大切な業務であり、障害が起きたときには原因究明と復旧を即座に行います。
これらがインフラエンジニアの主な業務です。企業の業務システムや個人のネットワークの安全を守る、社会を支える縁の下の力持ちです。
職種について
インフラは領域が広く、担当する分野によって職種が細かく別れています。ITインフラを交通網に例えてみましょう。
※インフラエンジニアは、以下の職種の総称です。
ネットワークエンジニア
サーバーとサーバーを結ぶ、道路のような役割を果たす仕事です。複数のコンピュータや周辺機器などのハードウェア同士を結び、プログラムやデータを共有できるネットワークシステムを設計・構築し、さらにその運用管理をサポートします。
サーバーエンジニア
サーバーそのものを設計・構築する、お店や町の開発をするような仕事を指します。コンピュータシステムを運用するサーバー機器の構築や、サーバーで使われるソフトウェアの設定を行います。
データベースエンジニア
データの蓄積や管理をする、信号機のような役割を果たす仕事です。大量のデータを蓄積し、情報を高速に処理することができるデータベースそのものを設計・構築・運用します。
道路がきちんと整備され、交通ルールが守られているからこそ安全に目的地まで到着することができますよね。これはITの世界でも同様です。きちんと整備されたITインフラがあって初めて、快適で安全なITを利用することができるのです。安全なITには、様々な職種の人たちが関わっています。
こんな人におすすめ
コンピュータが好きな人
インフラエンジニアとして活躍する上で何よりも大切なことは、コンピュータに関する知識を積極的に吸収しようという姿勢です。IT業界は進化のスピードが非常に速く、短期間で新しい技術やシステムが次々と開発されます。そういったスピード感に置いて行かれぬよう、常に勉強し続けなければなりません。そういった意味で、コンピュータ好きでないと務まらない職種であると言われています。
論理的な思考ができる人
インフラエンジニアの主な仕事は、ネットワークや情報システムの構築や運用・保守などです。顧客の要望をヒアリングして納期や予算を踏まえた上で必要な機器を揃え、効率良くインストールや設定、運用テストを行うためには、論理的な思考に基づいて計画を立てることが必要になります。日頃から道筋を立てて物事を考えられる人は向いている職種です。
必要なスキル
インフラエンジニアのスキルは幅広く、ネットワークエンジニアやサーバーエンジニアの両方の仕事を担う場合は、多くのスキルを求められます。
基本的に押さえておくべきスキルは主に三つ。
一つは「インフラ全般の知識と技術」です。インフラの設計・構築・運用を行うため、ネットワークやサーバーに関する知識と技術は必須です。これらの知識と技術を身につける上で役立つ代表的な資格に、Linux技術者認定「LinuC(リナック)」があります。
LinuCの認定取得に向けて学習を進めることでネットワークやサーバーの世界で標準となっているともいえるLinuxについての知識を得られるのはもちろんのこと、昨今のインフラを考える上で避けられない「仮想化技術」や「クラウドセキュリティ」など、今活躍するエンジニアが現場で求められる知識と技術を身につけられるようになります。
また、Apacheなどのミドルウェア知識、PHPやPealなどのプログラミング言語、データベースなどは必須スキルとして求められることが多くあります。プログラマなどを経てインフラエンジニアへのキャリアアップを望む場合は、このような知識を身につけておくと良いでしょう。
二つ目は、エンジニアとして必須の「統率力」です。IT技術者は基本的にプロジェクト単位で動くため、チームをまとめる統率力が重要になります。
三つ目は、「コミュニケーション力」です。業務を円滑に進めるためにも、周囲の人の意見に耳を傾けたり、自身の考えを的確な言葉で伝えたりするコミュニケーション力が重要になります。顧客の要望を引き出す際にも必要なスキルです。
インフラエンジニアのやりがい
インフラエンジニアのやりがいは、「働きながらインフラの勉強ができる点」と「トラブルの際に頼られる満足感」にあるようです。
インフラエンジニアは、インフラの整備が完了すると後は監視(運用・保守)が主な業務となります。そのため、その時間を利用してインフラの知識を深めることができるのです。働きながら勉強ができることにやりがいを感じる人も存在します。
また、そうして蓄積された知識をもとに、トラブルの対処を行います。実際にトラブルが発生した際に迅速な対応ができれば、周囲から頼られる充実感やインフラエンジニアとしての信頼を得ることができるでしょう。
代表的な企業
インフラエンジニアが活躍する代表的な企業は、以下の通りです。
キャノンITソリューションズ、JBCC HD、TISソリューションズ、日本情報通信 etc
インフラエンジニアの需要と将来性
現在、インフラエンジニアの需要は高い状況にあります。クラウドサービスの概念が急速に広がり、きわめて簡単にサーバーの構築や運用が行える環境が整ったため、インフラエンジニアがより求められるようになりました。
また、大手企業だけでなく、中小企業におけるITインフラの安全性や安定性の意識が向上しています。それに伴い、ITインフラ整備の必要性も高まっていることも要因の一つです。
インフラエンジニアは、IT社会と呼ばれる現代の通信やシステムの基盤を作っている職種です。インフラの名前が付くだけあり、今やインターネットは常に繋がっていて当たり前の存在です。それを構築・運用する職種なので、この先無くなることはありません。これからインフラエンジニアとして活躍したいと考えている方は、前述した必須スキルと併せてクラウドの知識を身に着けておくと良いでしょう。
インフラエンジニアの詳細データ
気になるインフラエンジニアの詳細なデータをまとめてみました。
平均年収
インフラエンジニアの平均年収は、550万円です。資格や企業規模によって異なり、年収推移は480~570万円と言われています。IT業界の中でも特に需要の高まりを見せている職種ですが、全体的な人材不足により年収は上昇傾向にあります。また、平均月額給与は約34万円です。
男女比
IT業界全体の男女比は8:2ですが、インフラエンジニアだけで見ると9:1で大部分が男性です。一見すると、女性が活躍しづらい環境であるように思われますが、女性の比率も少しずつ増えています。また、女性は同性のライバルが少ない分、管理職に就きやすい傾向にあります。
労働時間
インフラエンジニアは、その時担当しているプロジェクトによって勤務スケジュールが異なります。顧客との打ち合わせがメインとなる時期は先方の都合に合わせなければなりませんが、その後の工程では自分の裁量で作業を進められることも多く、フレックス制が導入されているケースもあります。ただし、納期前は他のプログラマやエンジニアと同様、残業が増えます。
また、監視や運用・保守は24時間体制のためシフト制の場合が多く、夜勤の可能性も大いにあります。
主な開発言語
インフラエンジニアを目指すのであれば、「シェルプログラミング(シェルスクリプト)」の知識があると強みになるでしょう。
また、基本的なサーバー管理に役立つ「LL言語」、オープンソース系サーバーで必要な「C」、クラウド化や仮想化に合わせた「Perl」や「Python」なども習得しておくと業務の幅が広がります。